日本の各地では近年、芸術祭が雨後の筍のように登場し、芸術祭目当ての観光が新たなブームになっています。ただし、会場へのアクセスが不便で車の運転が必要なこと、またはアート作品は難解というイメージから、外国人観光客にとってはハードルが高めです。今回ご紹介する「六甲ミーツ・アート芸術散歩」は、毎年秋に神戸市の六甲山で開催されるイベントで、市街地からのアクセスが便利なだけでなく、自然の風景に溶け込むアート作品を誰でも気軽に楽しむことができます。これからお届けする情報を参考に、六甲ミーツ・アートへ癒しの旅に出かけてみてはいかがでしょうか。
「六甲ミーツ・アート芸術散歩」概要
神戸と言えば、多くの人が思い浮かべるのは港町のイメージでしょう。もちろん、神戸は日本の主要な国際貿易港の一つで、重要な観光港でもあります。ところが、市街地からそれほど離れていない六甲山からはキラキラした夜景を楽しめますし、すぐそばには名湯「有馬温泉」もあります。神戸は実のところ、関西人に人気のお出かけ先でもあるのです。
今年13回目を迎える「六甲ミーツ・アート芸術散歩2022」は、秋の六甲山の風物詩として定着しつつあります。毎年、六甲山上の施設を舞台に開催されるこの展覧会は、作品が風景や歴史、カルチャーに溶け込んでいて、行くたびに新たな六甲の魅力を発見することができます。また、他の芸術祭とは違って、運営側からアーティストに製作を依頼するだけでなく、作品の公募も行っており、興味のある方は誰でも応募できるということです。もし会場に足を運ばれたあなたが、六甲の土地柄を気に入り、作品のインスピレーションが生まれたなら、今後この展覧会で作品を出展する機会があるかも知れませんね。
アクセス方法は?会場間の移動は?
六甲山へのアクセス
六甲山はロケーションに恵まれ、神戸の中心街「三宮」からも、大阪梅田からも、アクセスが便利です。次の3つの駅からは、神戸市バス「16」系統または「106」系統に乗り、「六甲ケーブル下」で降りた後、わずか10分で気軽に六甲山に上ることができます。
●阪急電鉄六甲駅
●JR六甲道駅
●阪神電気鉄道御影駅
また、六甲山の近くには「日本三名泉」の一つ、有馬温泉がありますので、六甲山訪問の前後に温泉観光を組み込む行程がおすすめです。アクセスには「六甲有馬ロープウェー」が利用できます。
エリア間の移動
六甲ケーブル「六甲山上駅」に到着した後は、各会場を結ぶバスで移動。路線は3系統あります。
●六甲山上バス(本線)
●六甲山上バス(風の教会教堂回り※芸術祭の期間中のみ運行)
詳しい路線図は公式ウェブサイトをご覧ください。
6エリアの見どころ紹介
「六甲ミーツ・アート芸術散歩2022」は全部で10カ所の会場があり、6つのエリアに分かれています(上の図の緑の点線で囲った部分)。会場マップ一番下の「01六甲ケーブル」が、六甲ケーブルで山上まで来た場合の到着場所です。それでは、ここを起点として時計回りに各エリアの見どころを回りながら、筆者の印象に残った作品をご紹介していきます。
1.六甲山の玄関、天覧台から眺める絶景(01 六甲ケーブル)
「六甲ケーブル六甲山上駅」で下車した後、すぐに今回のイベントの最初の作品がお目見えします。この作品のアーティストがモチーフに選んだのは、観光地によくある「顔はめコーナー」。ユーモラスで可愛らしいタッチの画風と、オリジナルキャラクター「六甲坊や」を目当てに、多くの人が記念写真を撮っていました。
駅構内には案内処のほか、荷物を預けられるロッカーがあります。二階にはTENRAN CAFEと、神戸市の景色を一望できる天覧台があります。ではこれから、駅の外からバスに乗って会場エリアへ向かいましょう!
2.青空広がる芝生で遊び心たっぷりのデザインを体感(02 兵庫県立六甲山ビジターセンター/ 03 六甲山サイレンスリゾート)
明治時代(1868~1912年)、神戸港に外国人居留地が置かれ、付近の六甲山が切り開かれて、リゾート地が造成されました。「六甲山の開祖」と呼ばれるアーサー・ヘスケス・グルーム(Arthur Hesketh Groom)の像が、兵庫県立六甲山ビジターセンター内に置かれています。芝生にはこのほか、遊具のような彫刻が設置されていますが、実はこちらも今回の展覧会の作品の一つです。
兵庫県立六甲山ビジターセンター(記念碑台)から徒歩で5分ほどの六甲山サイレンスリゾートは、外観も内装も印象的です。二階のギャラリーには、漫画家の横山裕一氏の作品が展示されています。
3.耳に心地よい音符の森で散策を(04 ROKKO森の音ミュージアム)
ここは有名なオルゴールの博物館で、19世紀から20世紀初めにかけて欧米で製造されたオルゴールが展示されているほか、オルゴールの手作りを体験したり、オルゴール自動演奏楽器の演奏を楽しんだりすることもできます。
敷地内のガーデンはとても優美な雰囲気で、散策路が整備され、あちこちに鳥の巣箱のようなオルゴールが置かれています。手で紐を引っ張ると、ジブリアニメのBGMなどが林の中に響き、癒し効果は抜群です。
ガーデンには出展作品も沢山置かれています。今回のメインビジュアル作品『闘う女の子と中国の文官』もこちらにあります。中国風の陶人形の身体に、別の時代の女性の頭部を逆向きに配置した像を見ていると、周囲の風景と相まって不思議なな雰囲気が漂ってきます。
ガーデンを一周した後は、「森のCafé」のテラス席でのランチがおすすめです。または、ガーデン内のツリーハウス、池の傍のハンモック、テーブルやベンチで一休みするのもいいでしょう。ここに来るだけで、オルゴールと自然とが織りなす音楽を、一日中うっとりと聴いていたくなります。
4.驚くべき植物たちとアート作品(05 六甲高山植物園)
六甲山頂は海抜931メートルで、この植物園は海抜865mほどのところにあります。気候の涼しい園内には、世界各地から来た約1,500種の高山植物や六甲山に自生する植物、山野草などがあります。頭上を見上げたり腰を屈めたりするたびに、多様な種類の可愛らしい季節の草花を見つけることができます。
驚くべきものは高山植物だけではありません。毎年、展覧会の期間中は、園内も重要な会場の一つになります。例えば、西出口付近の売店「ショップ アルピコラ」外側では、人の形の立て看板を横に倒したアーティストの作品を見ることができます。このアーティストは、身体の芸術的可能性を探求した実験的作品で知られ、自らの身体を日々探求しており、身体を観察する行為をインスピレーションの源とする作品を多く手がけています。
また、ゴムホースを巻きつけて成形されたこちらの立体作品も、驚きに満ちています。ホースの内側には、生命の源である水と、単細胞生物のミドリムシが入っています。緑色をしたミドリムシはここでどんどん増殖していくので、展覧会が終わるころには、作品全体がすっかり緑に染まって今とは違う姿になっていることでしょう。
東出口付近の作品『狭間の森』は、3本脚の不思議な小型の妖怪のような異形な存在が群れをなしています。一体一体異なる姿をしているのが人の好感を呼ぶのでしょうか、今回の展覧会の中でも特に人気の高い作品の一つとのことです。見ていると、不思議の森に踏み込んだような気分になりますね。
5.六甲の自然を体いっぱいに満喫(06 六甲ガーデンテラス/ 07 六甲枝垂れ自然体感展望台 / 08 六甲有馬ロープウェー 六甲山頂駅)
先程ご紹介した天覧台のほかに、神戸の景色を一望できるもう一つのスポットが、六甲ガーデンテラスです。今年は、テラスに彫刻作品が設置されています。上半身は牝牛、下半身は白い液体がどんどん流れ出す牛乳パックで、この近くにある「六甲山牧場」や、神戸の豊かな食文化との関連性を示唆しているようです。
大きな樹木のような覆いに囲まれたヒノキ材の建物は、このエリアのランドマーク「自然体感展望台六甲枝垂れ」です。建物内では、その名の通り、季節や時間帯によって移ろう太陽の光、風、雲、霧、氷などの自然の変化を感じることができます。
入口前の階段には、廃棄物を使ったイノシシのオブジェが数体置かれています。これはアーティストが地元の観光施設から材料を集めて制作したもので、細かく見ると、大きい方のイノシシは六甲山人工スキー場のそりやストックなどを組み合わせて作られ、小さい方にはレジャー施設のレストランで使われていた調理具や食器が使われています。この作品からは、高度経済成長から現在までの六甲山における観光産業の移り変わりを読み取ることができます。
続いて、「六甲有馬ロープウェー 六甲山頂駅」に足を伸ばしましょう。駅構内の向かい側には、使われなくなった駅のホームがあり、こちらには、アーティストが14年をかけて糸を織り上げて制作した巨大なネットが高々と吊り下げられています。この作品は、今年の展覧会の公募大賞受賞作品です。
6.有名建築家の手による必見の教会がここに(09 グランドホテル六甲スカイヴィラ/ 10 風の教会、六甲山芸術劇場・芸術センター)
最後にご紹介するのは、「風の教会」エリアの作品群です。上の写真の場所は、今は更地になっていますが、かつては六甲オリエンタルホテルがありました。同ホテルは2007年に廃業し、2017年に取り壊されました。
幸い、有名な建築家の安藤忠雄氏が設計した「風の教会」は良い状態で保存されており、毎年展覧会の期間中は入場見学することができます。建築愛好家の方は、ぜひこのチャンスを逃さずに、大阪の光の教会、北海道の水の教会とともに「安藤忠雄の教会三部作」と並び称される「風の教会」に足を運んでみてください。
さらに、今年は本来の落ち着いたコンクリートの色ではなく、日本の現代アーティスト・大巻伸嗣氏のアイデアにより、教会全体が赤い空間に変貌しています。まるで、20年間の静寂を打ち破る鐘の音が響き、新たな生命の火がともされたかのようです。
このエリアには、古いホテルを改造した芸術センターもあり、こちらには7人のアーティストの作品が展示されています。神秘的なもの、ユーモラスなもの、奇抜なもの、ほっこりさせるものなど、テーマやスタイルはそれぞれです。筆者が特に気に入ったのはこの部屋です。アーティストが壁一面に観光名所を映す人々の写真を貼り付けたコラージュ作品で、足を踏み入れるとまるで大勢の人に取り囲まれたかのようで、体感してみる価値は充分です。
旅をさらに面白くする5つの秘訣
1.六甲山小学校の児童がデザインしたスタンプ
筆者はこれまで各地の芸術祭を訪れましたが、ほとんどの場合、作品の近くにスタンプ台が設けられ、見学者が記念のスタンプラリーを楽しめるようになっていました。「六甲ミーツ・アート芸術散歩2022」のスタンプは特徴的で、スタンプのデザインが一つ一つ違っています。いずれも、山上にある六甲山小学校の児童たちがデザインしたものです。
2.今回の芸術祭のテーマ食材・味噌を堪能
今回の芸術祭の大きな特色は、新たな目玉として登場した「六甲山みそグルメ」です。イベントに参加する六甲山上の7つのレストラン、カフェでは、六甲味噌を使った期間限定メニューを用意しています。来場者は、自然や芸術を楽しむついでに、地元の優れた食材も味わうことができます。
また、六甲山には眼下に広がる景色を見ながら食事を楽しむことができるレストランがいくつもあります。
六甲ガーデンテラスのグラニットカフェでは、本格的なコース料理やセットメニューが楽しめますよ。
シェフ特製のお洒落な創作料理や手作りスイーツが自慢のレストランです。
夜は素晴らしい夜景とともに食事することができます。
3.期間限定のナイトイベント「ひかりの森~夜の芸術散歩~」
開催期間中の土日祝日には、「六甲高山植物園」と「ROKKO森の音ミュージアム」の開園時間を夜8時まで延長します。夜の帳が下りた後、二つの会場ではライトアップが行われ、夜間特別作品を見ることができます。
大型芸術祭の常連であるアーティスト・髙橋匡太氏が、光と映像を巧みに駆使して、会場に普段とは違った雰囲気を創り出します。
4.晩秋の楓の紅葉に彩られ、作品がより魅力的に
筆者が実際に訪れた10月初め頃は、掲載した写真の通り、木々はまだ青々としていました。通常、六甲山の紅葉の見ごろは11月上旬から下旬ごろです。紅葉に彩られたアート作品は、また一味違う姿を見せてくれることでしょう!
5.急変しやすい山の天候、お出かけの際は充分な備えを
訪問した当日は、夕方近くになると濃い霧が現れ、雨が降り出し、気温が一気に低下しました。夜景が見えなかったのはとても残念でしたが、ぼんやりとした霧のベールに包まれた六甲山も、また格別の趣がありました。お出かけの際は、くれぐれも忘れずに雨具や防寒着をお持ちください。
身近にある大自然とアート
「六甲ミーツ・アート芸術散歩2022」を訪れた方には、賑やかな神戸の市街地から遠くない場所に豊かな自然景観があることや、アート作品は決して難解なものではないことを、きっと感じていただけると思います。今回私に同行した仲間は道中、建物の前に設置されたインスタレーションを見て、「これも今回の作品?」と聞いてきました。ハンドブックで確認したところ、リストにはありませんでしたが、驚きや美しさを感じられたのであれば、それもまたアートなのだと思います。
六甲山はこのように、サプライズに満ちた場所です。もし機会があれば、ぜひ秋にこの地を訪れ、自然の中でアート作品との出会いを楽しんでください。
「六甲ミーツ・アート芸術散歩2022」
開催期間:2022年8月27日(土)~2022年11月23日(水・祝)
※会期中無休。ただし、六甲山サイレンスリゾートのみ、10月の毎週月曜休業。
参観時間:10:00~17:00 ※会場により一部異なります。17時以降に鑑賞できる作品もあります。
鑑賞パスポート:
一般:大人2,500円、小人1,000円。
一般+夜間:大人3,300円、小人1,400円(提携鉄道会社の駅または市街地の指定取扱い窓口で購入の場合、200円割引となります。詳しくは公式ウェブサイトをご覧ください。)